東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所は、このたび海外より二人の講師の方をお迎えして、下記の連続国際ワークショップを開催することになりました。
ガザ地区における著しい人道的危機が国際的な関与の必要性を訴えかけるなか、こうした事態の背景となる紛争を生き抜いてきた人々(ここでいう「犠牲者」)の肉声に、映像作品を通して直接耳を傾ける試みは、大変意義深いものと考えております。
皆様ご多忙の時期とは存じますが、ご参加をお待ち申しております。
■ 招聘者
ハーディー・ザッカーク氏
(レバノン在住パレスチナ人、映画監督、セント・ジョセフ大学講師)
紹介作品『無期難民(Refugees for Life)』(英語字幕)
ハイム・ブレシース氏
(イギリス在住ユダヤ人、映画監督、イースト・ロンドン大学教授・メディア研究学科長)
紹介作品『危険な状態(State of Danger)』(英語字幕)
○ 作品紹介 (ともに日本初公開、英語字幕)
『無期難民』(2006年, 03Productions, 48分)レバノン南部のパレスチナ難民が置かれた現状と、彼らが抱くアイデンティティについて、ドイツへの移民などの事例をもとに描く。
『危険な状態』(1989年, BBC2, 30分)第1次インティファーダさなかの占領地パレスチナの状態と、そこに置かれた人々の生活の実態を描く。
■ スケジュール
2009年1月30日〜2月4日
以下、プログラムの概要です。詳細(英語版)については、下記のウェブ・サイトをご参照願います。 (http://aziza.web.fc2.com/contents/aa/aa_index.html)
内容:趣旨説明:錦田愛子(アジア・アフリカ言語文化研究所)
映画上映:『無期難民(Refugees for Life)』ハーディー・ザッカーク監督, 2006年, 48分.
『危険な状態(State of Danger)』ハイム・ブレシース監督, 1989年, 30分
講演/質疑応答:「作品制作にあたって」
ハーディー・ザッカークHady Zaccak(ベイルート・セント・ジョセフ大学)
コメント:ハイム・ブレシースHaim Bresheeth(イースト・ロンドン大学)
総合討論
司会:黒木英充(アジア・アフリカ言語文化研究所)
言語:英語(講演・映画字幕ともに)※通訳はありません
日常生活の中で紛争に直面する人々が、どのようにアイデンティティ形成を行うのか、本回では紛争の異なる側面をとりあげた二作品を通して考えていきます。『無期難民』はレバノンおよび難民の再移民先であるドイツで撮影された、2000年代の作品です。世代を重ねる中、難民状態が所与のものとなった人々の、継承と適応に注目しています。『危険な状態』は現在のパレスチナ自治区(ガザ地区、ジェニン、ベツレヘム等)で撮影された作品で、第1次インティファーダ(1987年〜1993年)の中、抵抗や対話のために取り組む人々の様子を描いています。こうした歴史的な出来事や時間の経過が、各局面において人々の意識にどんな影響を与えているのか、監督を交えて議論を深めていきたいと思います。
共催:AA研共同研究プロジェクト「東地中海地域における人間移動と「人間の安全保障」」
プログラム:
《プレ・セッション》13:00〜14:30
映画上映:『無期難民(Refugees for Life)』ハーディー・ザッカーク監督, 2006年, 48分.
『危険な状態(State of Danger)』ハイム・ブレシース監督, 1989年, 30分
《国際シンポジウム》15:00〜18:00
15:00- 15:15趣旨説明:岡真理(京都大学)
15:15-16:15講演:「映画の中のホロコーストとナクバ」ハイム・ブレシース(イースト・ロンドン大学)
16:15-16:45 コメント: ハーディー・ザッカーク(ベイルート・セント・ジョセフ大学)
16:45-17:00 休憩
17:00-18:00 総合討論
19:00- レセプション
司会:西成彦(立命館大学)
言語:英語 ※日本語への逐次通訳がつきます
ナクバから始まるパレスチナの悲劇と、ホロコーストでのユダヤの悲劇は、紛争によって 結びつく。また両者は、それぞれのコミュニティの態度とアイデンティティを構築する要素でもある。西洋のファシズムの犠牲者であったユダヤ人が、同種の悲劇をパレスチナ人に対して生む結果になったのは、歴史の皮肉としか言いようがない。かれらは自らの悲劇から、何を学んだのか。そもそもナクバの悲劇について認識しているのか。このシンポジウムでは、両者のナラティブの比較を通して、それぞれが悲劇に向き合うやり方や、国際社会の中で、それらが政治的、文化的にどう位置付けられてきたか検討する。
共催:京都大学大学院人間・環境学研究科
プログラム:
16:30-16:45 趣旨説明:赤尾光春(大阪大学)
16:45-17:15 映画上映:『危険な状態(State of Danger)』ハイム・ブレシース監督,
1989年, 30分
17:15-18:15 講演: 「パレスチナの二つ国家 ―わずかすぎる、遅すぎる―」
ハイム・ブレシースHaim Bresheeth(イースト・ロンドン大学)
18:15-19:00 総合討論
司会:赤尾光春(大阪大学)
言語:英語(講演・映画字幕ともに)※通訳はありません
イスラエルとパレスチナの紛争の解決には、二つの案が提示されてきた。それは「一国解決案(二民族国家案)」と、「二国解決案」である。1947年には国連で両案が審議された上で、分割決議が行われた。イスラエルはオスロ合意まで、パレスチナ国家の樹立を認めなかったが、そこで約束されたものもまた、非合法な土地収奪により骨抜きにされた。和平交渉は、両者の不平等な立場を前提としたもので、イスラエルとパレスチナはあたかも「騎手と馬」のような関係であった。そこに公正な解決案が生まれるはずもなく、イスラエルの植民者としての利益を実現させるのみとなった。本ワークショップでは、現在の展開からふたつの解決案を再考し、映像作品に基づき、近い将来の解決の可能性を探っていく。
共催:大阪大学グローバルCOEプログラム「コンフリクトの人文学 国際研究教育拠点」
上映作品:『無期難民(Refugees for Life)』
講師:ハーディー・ザッカーク氏
共催:東京外国語大学 中東イスラーム研究教育プロジェクト学部班「中東を知る基礎講座」
■ 招聘者略歴
Hady Zaccak(ハーディー・ザッカーク)
ベイルート生まれのパレスチナ人(ナクバ経験者の二世)。
映画監督。レバノン・セント・ジョセフ大学講師(映画史)
レバノン国内政治や、中東の問題に関するドキュメンタリー作品で知られる。
Haim Bresheeth(ハイム・ブレシース)
イギリス在住のユダヤ人(ホロコースト生存者の二世)。
映画監督。イースト・ロンドン大学メディア研究学科長
パレスチナを扱った映像に関する著作で知られる。『ナクバ:パレスチナ1948』(アフマド・サアディー&ライラ・アブー=ルゴッド編)にも寄稿。